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救児の人々 ~ 医療にどこまで求めますか [オススメモ]

100526.JPGようやくバニラの外泊許可が下りました。
一歩前進です。

元気になっていくに伴い、自由に身動きが取れるし、入院ライフをエンジョイ出来るまでになりました。
自分の気持ちを手紙や絵にしていいよとノートを渡しておいたのですが、入院した頃に描いた絵は暗く、塗りつぶされていて、文字を書こうとしても感情が高ぶってしまうようで、表に出ささず心の中にしまっておいたようです。
その反対に私は毎日バニラに日記のような手紙を書いていつも帰っていきました。

ある日の面会で壁に貼られた一枚の手紙がこの写真です。

復帰したての私には仕事ー面会ー家庭のサイクルがまだしんどくて、帰り道いつもどんよりしていて、眠れなくって、そんな自分にイライラして、バニラと衝突することもいっぱいあって‥
毎日が反省だったのだけれど、この一枚が繋いでくれたと感じました。

毎月、「ロハスメディカル」(web)というフリーマガジンを読んでいるのですが、5月25日に同社から「救児の人々 ~ 医療にどこまで求めますか」が発行されました。6月19日まではweb上で全文公開もされている大変気合いの入った1冊です。

プロローグはこうです
『軽蔑していいですよ。子供が助からない方が、よかったのかもしれないと思うことがあるんですよ……。昔だったら医療がこんなに発達していないから、小さい赤ちゃんは助からなかったと聞きますよね。じゃあ、翔太も昔なら助からなかったんでしょうかね……。あの子は私みたいな親の元で障害を持って生まれちゃって、かわいそうですよね……。子供が生まれた時に、お医者さんも看護師さんも「助かってよかった」と笑顔で言ってくれました。あんなにも一生懸命に頑張ってくれている人たちに「助からない方がよかったのかも」とか、口が裂けても言えるわけないじゃないですか。言ってはいけないって分かってますよ。でも、私が思うのは、『産んでしまって、ごめんなさい』なんです。こういう気持ち をどうすればいいのか、本当に分からなくて、助けてほしいですよ。

これは、31歳の時に妊娠25週で570グラムほどの男の子を出産したあるシングルマザーの言葉だ。その男の子、翔太君は、新生児集中治療管理室(NICU)に搬送され命を取り留め、今は3歳だ。しかし早産のためか、生まれつき脳に障害があり、母親と意思疎通することすらできない。

医療者たちが過労死ギリギリまで働いて築いてきた世界有数の新生児医療があったからこそ、翔太君は生きている。一方でこのお母さんはキャリアを絶たれ、いつ終わるとしれない介護生活の中、「翔太を殺そうとしたことが何度もある」と言う。

新生児医療には巨額の公費が投じられている。つまり社会全体の意思として、翔太君のような新生児の命を救うよう医療者に仕向けてきたことになる。しかしほとんどの人は、当事者になるまで、このような世界があることを知らず、突然放り込まれて苦悩している。

私が、このお母さんを取材したのは、2008年10月4日に起きた墨東病院事件がきっかけだった。脳内出血を起こした東京都内の妊婦が、名だたる8つの大病院から受け入れを断られ、最終的に受け入れられた都立墨東病院で3日後に死亡した。妊婦の救急医療の〝最後の砦〟と呼ばれる「総合周産期母子医療センター」を9つも持ち、埼玉県や神奈川県など周辺地域からも妊婦の救急搬送を受け入れている東京都で起こった事件は、多くの国民や医療関係者を震撼させた。医療・介護を専門に扱う記者の私も、当然のように問題を追い始めた。

最初は世の中の多くの関心と同じように、医療体制の不備の背景を探っていた。昨今叫ばれるようになった医療費抑制政策や医師不足による〝医療崩壊〟は、もちろんあった。だが、それだけではないことにも気づかされた。

この現代社会の病巣ともいえるような、国民の倫理観や死生観の欠如、自分たちが社会を構成する一員であるという意識と想像力の欠落、それを助長させる社会構造、それらが新生児医療に凝縮されていた。

こんなことを言うと各方面からお叱りを受けることを承知で、あえて書く。私は取材を進め新生児医療のことを知るにつれて、もはや人間の領域ではないと思った。

新生児科医は、本当ならまだお母さんのお腹の中にいるべき時期の未熟な赤ちゃんに心臓や脳の手術を行うのだ。まだ1000グラムにも満たない、小さな赤ちゃんに対して、彼らの小さな手の指よりも少し細いだけの針を刺し、体にメスを入れる。ここまで進歩した医療技術とその進歩を支えた医療者たちの「献身」に敬服した。

一方で、本当にこれでいいのかと何度も思った。もし私たちが、自分の体ほどもあるような大きなメスで切られようとしていると思ったら、逃げ出したくならないだろうか。体の血を何度も全部入れ替えるような大きな手術をされると思ったら、恐ろしくはならないだろうか。

日本の周産期医療のレベルは世界一を誇る。妊産婦死亡率、新生児死亡率、こんなに安全で安心して医療を受けられる国は他にないとされる。しかし、それは家庭も顧みずにひたすら「救う」ことに邁進し続けた医療者が出した結果であり、彼らが〝ゴッドハンド〟を持っていたから成し得たことだ。50年前ならば「脳です」「心臓です」と言うだけで、もうそれ以上の治療はできなかったし、患者や家族も望んでも無理であることを承知していた。しかし、今は望むことが可能になった。しかし、今後も本当にゴッドハンドレベルの医療が全国民に対して必要なのだろうか?

医療崩壊が叫ばれている。一方で、医療費さえあれば、どこまででも高度医療を追求できる可能性がある。

一体、私たちはどこまで医療に求めるのか、求めることが許されるのか。』


私もさっそく読みました。
バニラもNICU卒業児であり、現在も先天性の病気と共に育っています。
患者さんやご家族の方は仮名ではあるけど、医師や医療機関は実名であり、その内容のストレートかつ突きつけられる現実と投げかける問題。思わず、背を向けたくなる内容で読む気にもなれない、閉じたくなってしまう、それほど重たく辛い内容であります。
しかし、今までに公にならなかった部分が1冊の本となって手に取れる、知ることが出来るというのは避けずに目を通してもらいたい努力の結晶だと感じました。

バニラが生まれて来た時をよく思い出します。
育って来た今までを振り返ります。
自分がして来たこと、我が子にしてやれたこと、今後の課題‥
どのお母さんも一緒だろうけど、ちょっと考えること悩むことが多い気がする。そして責めることも。
第11章のお母さんの気持ちに今は近いけれど、そんなに頑張れない自分もいてそれを否定してみたり肯定してみたり。揺れます。

「NICUのことを書いてあります」と軽い気持ちで目を通していったら、社会構造・倫理観・死生観、政治に教育に福祉に‥あまりに複雑過ぎて投げ出したくなります。
でも知って欲しい小児医療の現状、あちこちで引かれる税金の行き先と小児医療の関わり、患者家族の想い、対話形式なので分りやすく、そして読みやすく書いてあります。まずはお父さんお母さんからぜひ。


救児の人々 ~ 医療にどこまで求めますか

救児の人々 ~ 医療にどこまで求めますか

  • 作者: 熊田梨恵
  • 出版社/メーカー: ロハスメディア
  • 発売日: 2010/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



これからお母さんになるであろう女性にはこちらもぜひ。

いつかお母さんになるあなたへ 妊娠の心得

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  • 作者: 宋美玄
  • 出版社/メーカー: ロハスメディア
  • 発売日: 2009/04/10
  • メディア: 単行本



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